ショートホープ

幼稚園のときの僕の夢はコックさんになることで、いつの間にかその夢が学校の先生になることで、大学進学もそれを夢見て教員になれるような学校に進学した。

中学校の教員免許を取るためには介護施設での実習と、あとなんかの実習(たぶん明確な定義があったはず)をやる必要があって、後者の実習の中で、僕はフリースクールでの最低5日間の実習を選んだ。ちなみにすぼらな性格のせいで介護施設での実習を申し込まなかったせいで、中学の教員免許は取れなかった、他の単位は全部取ったんだけど。

んでこのフリースクールでの実習がハマった。5日間どころか相当通った。楽しかった。子どもたちに受け入れてもらえるのがうれしかった。

でも途中でやめちゃった。たぶん僕がここでやっていける自信がなかったからだと思う。

僕は学校の先生になりたかった。自分の小さい頃の記憶を振り返ると、その当時からすると悪い意味で変わった子、周りから浮く子だった。家庭訪問で来た先生から「たいしくんはかしこすぎて周りから浮いてます」と言われていたのを狭い実家で聞こえてきたのを今でもおぼえているし、そのときはどういう意味かよくわからなかったけど、何年か経ってから反芻のごとく今でも思い出す。確かに僕は浮いていた。

そんな浮いていた僕が周りに馴染めずに困っているときに救ってくれた学校の先生たちが少なからずいた。そういう先生になりたいなと思って、学校の先生を目指そうと思って大学に進学した。

大学に進学して、ここだいぶ端折るけど、塾の先生になって、他の先生(笑)から生徒を巻き込んで嫌がらせを受けた。結局、先生って人気取りなんだなって思った。周りの色に馴染めない子どもたちを救おうと思っても、僕は多数派には勝てない、無力な人間なんだなと思うと、僕はしんどい思いをする子どもたちに何も教えられないなと思った。だって多数派に入れた方が人生楽しいんだし、そうできる術を持っていなかった、自分らしくなんてきれいごとが通用するわけないよなって思った。

というわけで僕は夢見ていた学校の先生になっても自分がしんどい思いをするわけだし、僕が教えた生徒たちが幸せになるかというとそうなるわけでもないと思ったし、そうなる自信もなくなったので、わりとあっさり教師になろうとは思わなくなった。そして僕はなにになりたいわけでもなく、ただ進学したからには教員免許を取るという理由があったのでそのために単位は取る。そこは貫く。どういうつもりで就職活動をしたのかはもう昔のことだから覚えてないよね!

んで、単位取らなきゃだからなんかの実習のためにフリースクールに行った。んでこれがハマった。楽しかった。5日間どころか相当通った。たぶんそこの市の教員の人から、ここでもっと続けてくれないかっていう話があった。なのに断っちゃった。僕には就職活動があった。だって僕は人の人生背負えないんだもん。そんな自信はなかったから逃げた。

僕がフリースクールに通い始めてから少し経ってから入ってきた子がいた。なぜか僕のことを慕ってくれていた気がする。ちょっと潔癖なところがあって、なにか触るときにビニールの手袋をしなくちゃだめな子だったんだけど、なにかのきっかけで外してみよっかなって言ったときはすごくうれしかった。なにかのきっかけに僕が少しでも関与できたのであれば良かったなって思う。

ふと彼のことを思い出して名前を調べてみたら、もう彼も30代半ば、不登校の人たちを支援する立場になっていた。かわいらしい顔つきが成長して大人の顔つきになっていて、でも彼の中でもまだ過去の苦しみが残っているみたいだった。彼の書いている文章を読んだら、多感な時期にもっと大人と話をしたかった、と書いてあった。彼よりも少し大人だったはずの僕が、僕のことをたぶん慕ってくれていた彼にもっと話をしていればよかったのかな、逃げ出したハタチの僕にもっとできることがあったのかな、そのときから2倍年老いた自分に問いかけたってなにもわかりゃしないし、成長した彼に連絡する勇気もなく、ああやっぱり僕は教師にならなくて良かったし、なるべき人間じゃなかったなって思う。